Super Audio CD
モーツァルト & ブラームス:クラリネット五重奏曲
メーカー希望小売価格 : 3,972円(税込)
Super Audio CD
特長
1949年にニューヨークで設立されたウェストミンスター・レーベルは、LPという新しいメディアの出現で俄かに新しいソフト制作の重要が高まっていく第2次大戦後の平和を迎えた世相の中で、強いアメリカ・ドルの影響力によってヨーロッパに出張録音を敢行し、特にウィーンにおいて、ウィーン・フィルのメンバーも含む現地の演奏家を多数起用して、室内楽の膨大なカタログを築き上げたことで知られています。戦後のウィーンでは演奏会以外のエキストラな収入を必要としている優秀な音楽家が多数いたこともあって、ウェストミンスターのような新興レーベルであっても比較的安いギャラで高水準の演奏を続々と収録することができました。1960年代になって会社の規模拡大に失敗してレーベルごと買収されることになり、日本でも親会社が変わるたびに発売元が変わる変転を繰り返すことになりました(現在はユニバーサルミュージックがカタログを保有)。新しい会社でウェストミンスターのカタログが発売されるたびに、必ず極め付きの名盤として必ず再発売されてきたのが、今回初めてSuper Audio CDハイブリッドディスク化されるレオポルド・ウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団によるモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲です。
レオポルド・ウラッハ(1902‐1956)は、LPレコードというメディアを通じて戦後の日本のクラシック・ファンの思い描くクラリネット演奏のイメージを確立した名手といえるでしょう。ウィーン生まれのウィーン育ち、学びもウィーン音楽アカデミーという生粋のウィーン楽派であり、1923年にウィーン・フィルに入団し、1928年から亡くなる1956年まで約28年間にわたって首席クラリネット奏者を務めました。第2次大戦を挟んでいたせいか、その長い演奏キャリアの割には、レコード録音が極めて少なく、そのほとんどは1950年代のウェストミンスターによる一連のソロや室内楽録音が代表盤といえるでしょう(1936年SP録音のワルター/ウィーン・フィルのベートーヴェン「田園」でクラリネットを吹いているのはウラッハだと言われています)。このモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲は、ウラッハがウェストミンスターに残した録音の中で最も高く評価され、愛好されてきたアルバムです。安定した技巧に支えられ、優美で洗練された気品と作品の内奥に迫る深みを兼ね備えた演奏は、文字通りウィーンの伝統を体現したものであり、特に2曲の緩徐楽章で聴かせてくれるしっとりとした甘美なまでの美しさをたたえたサウンドはもはや人間のものとは思われず、唯一無二の魅力をたたえています。
レオポルド・ウラッハ
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
ウラッハと共演しているウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、1934年、当時ウィーン交響楽団のメンバーだったアントン・カンパーによって設立されたカンパー=クヴァルダ四重奏団を起源とする弦楽四重奏団。1937年からはメンバー全員がウィーン・フィルに移籍したことで名声が急激に高まり、またコンツェルトハウス協会との演奏契約提携ができたことによって、ウィーン・コンツェルトハウスを名乗ることになりました。この四重奏団もウラッハ同様、1950年代にウェストミンスターにハイドンからベートーヴェンにいたるウィーン古典派の作曲家による室内楽作品を数多く録音しています。その演奏スタイルはウィーン楽派の伝統を汲み、優美かつ端正で格調高いものでした。モーツァルトではきりりとひきしまった古典派ならではの造型感が際立つ一方で、第3楽章メヌエットの第2トリオでテンポを大きく緩めるさまはロマン派的ともいえるかもしれません。ブラームスでは秋の気配ともいうべき甘美な寂寥感が演奏の何気ないところから薫りだしてくる点が見事です。
ウェストミンスターの一連の録音は、カタログの持ち主が変わるたびに身売りされ、それに呼応するかのようにプロダクション用のマスターが散逸したり、オリジナル・マスターが見つからなかったりと、音質面では妥協を強いられてきました。しかし1996年に当時のMCAビクターがロサンゼルスのテープ倉庫でこれらの録音のオリジナル・マスターを発見し、LP時代もしくは初期CDとは比較にならないほどの鮮明なサウンドがよみがえることになりました。ウェストミンスターのウィーン録音のほとんどは、ソロも室内楽も、マーラーのような大規模なオーケストラ作品も、1913年竣工のコンツェルトハウスの中ホール(客席数704)であるモーツァルトザールでおこなわれています。1951年のモノラル録音ですが、各パートが大き目の音像で鮮明に捉えているだけでなく、1996年に発見されたオリジナル・アナログ・マスターは音の鮮度そのものが極めて高く、それ以前のCDや再発LPのぼんやりしたサウンドとは桁違いの生々しいサウンドでウィーンの名手の演奏ぶりを今に伝えています。名盤ゆえにCD時代になっても再発売を繰り返してきましたが、今回は初めてのDSDリマスタリングとなります。今回のSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターテープの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。特にDSDマスタリングにあたっては、DAコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターとに、入念に調整されたESOTERICの最高級機材を投入、またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を余すところなくディスク化することができました。
「これは演奏技巧といいロマンティックな表情といい、ブラームスの柔らかな情緒を余すところなく表現した傑作である。ウラッハのクラリネットの音の優美な、そして一つの音としてぼけないよく歌った演奏は他に比類がないほどだ。それにコンツェルトハウスと、間然とするところのないアンサンブルを醸し出しているので、どの部分をとっても表情がはっきりしている。」 |
『レコード芸術』1956年6月号 推薦盤 |
「モーツァルトのクラリネット五重奏曲のレコードをたった1枚選べ、と言われたら、僕は今もって迷うことなく、このモノーラル時代のウラッハ盤を挙げるだろう。彼のウィンナ・クラリネットは溶けるように練れた音色を持ち、それが弦楽四重奏と不思議に絡み合いながら進んでゆくさまは夢に聴く思いだ。テンポを大きく動かしたロマンティックな表現だが、それでいて洗練の極みに達しており、モーツァルトの品位を失っていない。コンツェルトハウスもウラッハとぴったり息の合った彼らの最上の出来。」 「まさに極め付きというべき名レコードである。ウラッハのクラリネットはデリケートの極みで、そっと耳元でささやくような趣があり、やさしさと魅惑を秘めて忍び寄る魂のようだ。第2楽章など、ウィーンの夜の情緒であり、それだけにハンガリア・ムードの場面ではむせぶような匂いに欠けてしまうほどだが、第3楽章における速いテンポのニュアンスは絶妙に出る。コンツェルトハウスもロマンティシズムの粋で、フォルテは甘く、柔らかく、陶酔的でもあり、ポルタメント一つが古き佳き時代のウィーンの香りを伝える。」 |
『レコード芸術別冊・クラシック・レコード・ブック1000(5)室内楽曲編』1986年 |
「ウェストミンスター・レーベルに残された数々の歴史的名演奏の中でも、ある意味では最も「それらしい」格別の名盤のひとつで、史上最高のクラリネットの名作2曲、それをウラッハの演奏で楽しめるとあっては、これはもうひたすら感涙にむせぶほかないという熱烈な愛好家も少なくないのではなかろうか。コンツェルトハウスの演奏も晩年の情緒纏綿たる懐古的スタイルとは一線を画する。何よりも時代の雰囲気がくっきりと音楽に投影されているところが魅力的である。」 |
『ONTOMO MOOK クラシック名盤大全 室内楽編』1998年 |
「ウラッハのクラリネットは輝きを抑えて、音のしっとりとした本質で聴かせる種類のもので、ここでの2曲のクッリネット五重奏の名作を、その核心に沿って味わわせてくれる。モーツァルトではあくまで潔くのびやかな音楽への姿勢が、実に高貴な印象を与える。押しつけがましさとは異なった次元でこれはとても積極的な演奏で、モーツァルトの音楽を前に委縮したり躊躇したりが微塵もないのだが、そこから作曲者に特有の純真な美が匂い立つように薫る。(・・・)ブラームスは音楽の振り幅を一層大きく取って、男性的に強靭におおらかにこの名作の醍醐味を解放した演奏である。じっくりと腰を落ち着けて灼熱の高揚へと持っていったり、クラリネットがヴァイオリンと切実な歌を歌い交わしたりと、優れた音楽が求められるあらゆる要素が、見せかけや虚飾を一切排除して歌い、また語られる凄さに言葉を失うほどの演奏である。」 |
『クラシック不滅の名盤800』1997年 |
「ウラッハの音色は暗く、あまり音量の変化を感じさせない点に特色があり、フォルテが少ない割には音色感が統一されていて、その柔らかくふくよかな響きは他の楽器と見事に溶け合う。この録音でも、コンツェルトハウスの弦の響きがクラリネットの響きとよく溶け合い、何よりも時代の雰囲気がほのぼのと感じられ、これはいつの時代にも受け入れられる名盤中の名盤といえよう。」 |
『クラシック不滅の名盤1000』2007年 |
「ウラッハの渋く、滋味豊かな演奏はこれらの作品の演奏に期待される枯淡の境地にぴったりだ。ウィーンの伝統を頑なに守り続けたウィーン・コンツェルトハウスSQがバックを固めていることが古き佳き時代の室内楽というポイントでもある。」 |
『最新版 クラシック不滅の名盤1000』2018年 |